どうする金融政策[1]—政府・日銀協定は困難

富士通総研理事長 福井 俊彦氏

―金融政策の追加策を求める声が急に大きくなっています。

「昔から、財政や税制の論議が年末に一段落したときに財政・税制論議に充足感がないと、残りを金融政策に求める動きがでてきた。最近はとくに、従来は景気対策と呼んだ内容も含めてデフレ対策と表現する分、金融政策への連想を呼びやすいからだ」

「デフレの背景には金融政策の対象である貨幣的現象以外に世界経済、日本経済それぞれの構造変化という側面もある。ひとつの手段で対応できるとは考えづらい」

―構造変化とは。

「高い経済成長を続ける中国でも物価が下落していることに象徴されるように、物価を決める仕組み自体が変わってきた。経済の国際化と情報通信革命でモノ、資本、情報が自由に国境を越えるようになった結果、市場が一体化され、一部の企業の価格支配力ではなく、需給によって価格決定されるという経済学の原点に近づきつつある」

「日本独自の問題としては、高度成長期に労働力や、大量生産のための土地を奪い合った結果としてもたらされた高コスト構造も一因だ。この構造を是正する賃金や不動産価格の調整圧力が物価下落要因にもなる」

―日銀や政府は対応できていますか。

「小泉構造改革も日銀も、そういう仕組みの変化に焦点をあてている。その点で、たとえ意図しなくても両者の政策は、さや寄せしつつある」

「政府の予算編成や構造改革特区などにある程度その考えは見える。日銀は金融緩和で、個々の経済主体が構造変化の谷間を越えて新しい状況に対応する際のショックを和らげようとしている」

「もちろん、政府と日銀だけでは先頭に立って手を引っ張る力は十分ではない。大事なのはビジネスモデルを改革して前に進む企業や金融機関など民間部門の努力だ」

―物価上昇率がゼロを上回るまで量的緩和を続けるというのは、手を引っ張っていくことにはならないんですか。

「循環的な経済では先々のインフレの芽を早く摘むために先手を打つのが鉄則だが、今回は、構造的な谷間を渡った人がある程度そろうまで待とうという考えでしょう」

―何もすることはない、と聞こえます。

「ゼロ金利では、金利機能を生かすのは限界がある。しかし流動性の追加供給など金融政策の範囲は広がっており、工夫の余地は大きい。ショックに弱い経済の現状を考えると、金融システムなどへの不安感が市場で増幅するのを防ぐのも日銀の重要な役割だ。政策の効果を確実にするためには、市場参加者と対話を通じて信頼感を築くことが大事になる」

―あくまで伝統的手法がいいのでしょうか。インフレ目標の導入論は高まる一方です。

「流動性調節の効果を高める手段などについては、伝統的手法に教条主義的にこだわる必要はない。ただ、株や土地、外債を買えという人には、資産価格をつり上げたい、あるいは円安にしたいという思惑が随分入っているように見える。不動産価格については不動産の利用価値を高める施策、為替でいえば、国際競争力の弱い非製造業の生産性を高める努力が伴わなければ適正な相場形成にならない」

「インフレ目標は金融政策の規律を保つための中央銀行の道具立ての一つで、諸外国で例がある。十分関心を持っている。ただ、日本の場合、金融緩和だけで構造変化の谷間を乗り越えられるかのような錯覚を生まず、国民全体が我慢強く問題に立ち向かうという規律を弱めない方向で導入できるのかどうかという議論がぜひ必要だ」

―政府と日銀のアコード(協定)による目標共有という案は。

「政府、日銀とも国会や政策委員会などそれぞれ明確な意思決定の仕組みを持っていて、互いに意向を尊重し合うことが大原則となっている。何をするかについて、協定で互いに手をしばり合うのがいいのか、むしろ徹底した政策論議を交わすのがいいのか、難しいテーマだ」

(聴き手・渡辺知二)

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