どうする金融政策[2]—政府・日銀一体で大転換

前日銀審議委員 中原 伸之氏

―金融の量的緩和策の効果が出ていないといわれます。

「日銀が01年3月に量的緩和に踏み切ったとき、株価は上昇し、為替も円安に振れたが、長くは続かなかった。金融緩和がストップ・アンド・ゴーになっているのが大きな理由だ。マネタリーベース(日銀の通貨供給量)は昨年4月をピークに減少し、7〜9月は4〜6月に比べ年率で3.9%減った。日銀の当座預金残高(量的緩和策の目標)も15兆〜20兆円の範囲で動いているだけ。これではインフレ期待は生まれようがない」

―インフレ目標を導入すべきだ、との主張ですが。

「たとえば、2、3年先に1〜3%というインフレ目標率(消費者物価の上昇率)があれば、その達成のためのマネタリーベースの伸び率、国債の発行残高に占める日銀の比率などを考えるベンチマーク(指標)になる。いまの日銀の政策は時間的な期限がなく、アクティブとはいえない」

―具体的にはどうすればいいのですか。

「マネタリーベースを四半期ごとに前期比5〜6%増やす。そのために日銀は、国債購入額を現在の毎月1兆2千億円から、とりあえず2兆円まで増やし、当座預金残高を上積みしていく」

「ただ、金融政策と同時に、財政による有効需要喚起策も必要になる。今後2〜3年はバブルの総決算で日本経済の正念場だ。従来型の公共投資でなく、企業の過剰設備を廃棄し、生産性を向上させ、研究開発を促すために財政を支出する。世界的な新製品の開発や新技術への投資にもインセンティブを与える」

「減税も直接的に消費につながる方法を考えるべきだ。個人消費はGDP(国内総生産)の6割の300兆円。それを超えた分は消費税を還付してはどうか。ある基準年を設け、払った消費税額をICカードに記録していく。仮に基準となる消費税額が年30万とすれば、35万払った年は5万円を還付する。消費が30兆円増えれば還付は1.5兆円。財源は有効需要の喚起策と同様に国債発行でまかなう」

―財政出動で国債を大量発行すると、国債価格が暴落しませんか。

「政府は新規国債を発行することになるが、ポイントはそれと同額の長期国債を日銀が市場から購入することだ。そうすれば、国債の需給バランスは崩れない。こうした政策を実行するには政府・日銀の間のアコード(政策協定)が必要だ」

「このほか不良債権の処理と産業界の過剰設備の解消が重要だ。銀行の融資残高は96年3月をピークに急減し、あと2年もたつと、バブル以前の水準に戻る。銀行の過剰融資が解消される可能性が出てきた。ということは、不良債権の処理に一応のめどがつき、約50兆円といわれる過剰設備もほぼ解消に向かう。実際、業界再編が進んだ鉄鋼、紙パルプなどの業界では素材価格が上昇している。実体経済が反転すれば、金融緩和が効く」

―当面の問題として銀行の「3月危機」が懸念されています。

「銀行の信用力が下がり、株価が急落しているのが心配だ。時価総額は東証1部の銀行株で00年12月には36.6兆円だったが、今年1月8日時点で17.4兆円。シティバンク1行で22兆円あり、これだけで銀行が全部買える。これは恐ろしいことだ。政府と日銀は本気になってテコ入れしないといけない」

―どんな方法がありますか。

「銀行が不良債権を有税償却する過程で膨れ上がった『繰り延べ税金資産』が約9兆円ある。将来、税金が戻ることを見込んで銀行が自己資本に計上しているため、日銀は『自己資本の質が悪い』と指摘してきた。この9兆円を全額、銀行に還付する。国債を発行して繰り延べ税金資産分と交換し、それを日銀が購入して資金化する。自己資本の質的増強になり、銀行の経営不安の解消にもつながる。この際もアコードが必要だ」

―アコードで日銀の独立性がおかされませんか。

「日銀が大転換を図り、具体的な対策を国民に示し、その中で成果をあげれば、結果的に独立性は確保される」

(聞き手・桜井透)

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