どうする金融政策[3]—量的緩和で円安めざせ

東大教授 吉川 洋氏

―デフレ脱却のために、政府と日銀はなにをすべきですか。

「財政、金融、規制緩和などの政策を総動員するため、文字通り一体となって協力することだ。日銀が量的緩和を推進する一方で、政府は持続的な成長につながる需要創出に力を注ぐべきだ。為替市場への介入でも、政府・日銀が基本戦略を詰めることが必要だ」

―インフレ目標を設ける案について、どう考えますか。

「デフレ脱却の手段として掲げれば、それがただちに期待インフレ率を高め、名目金利がゼロでも(名目金利から期待インフレ率を引いた)実質金利を下げることによって投資が上向くという考えに私は懐疑的だ。ただ、政策の透明性を高める目標として、期限を明示して、たとえば3年くらいのうちに、1〜2%のインフレを政府・日銀が一体となってめざすということすらもできないというのではおかしい。その限りでは、やるならやったらいいと思う」

―肯定的な印象を受けますが。

「これまで、インフレターゲット(目標)の導入論というのは、それを掲げること自体が強力な政策だという、クルーグマン(米プリンストン大学教授)のような意見が主流だった。私は今も、それには懐疑的だ。つまり、魔法のつえではないし、単独ではデフレに有効などといえない。しかし、政府・日銀が一体となって2%ぐらいのインフレをめざす場合、そうした政策パッケージ全体を束ねる大目標として掲げるなら、めくじら立てるべきでない、ということだ」

―インフレ目標を設けた場合の効果は。

「金融の量的緩和を進めることで、円安が進むことを期待したい。もちろん、イラク攻撃の予測で円高(ドル安)が進むなど、市場にはさまざまの力が働くから、一筋縄ではいかない。円安になれば、輸入物価の上昇を通じてデフレに歯止めがかかる。110円台は避け、130〜140円台にしたいところだ。量的緩和に加え、介入という手段も考えられる」

―量的緩和の手段として、日銀による国債買いオペに、外債購入なども追加すべきですか。

「国債、外債、ETF(株価指数連動型の投資信託)、証券化された土地といった順序を立てて考えるのではなく、資産デフレの要素も大きいのだから、いまの時点では全方位で、並列的に検討すべきではないか」

―デフレが貨幣的現象だから中央銀行の対応が肝心だ、という主張は正しいのでしょうか。

「それは単純すぎる。デフレもインフレも最後はマネーがからむが、根底に実体経済の要因があってのこと。デフレが貨幣的現象というのは半分の真理だ。金融のボタンを押せば解決できるというような簡単なものではない」

―政府側の努力として、何が重要ですか。

「日銀に量的緩和の推進を求める一方で、それと同じくらい重みのあることを政府もどれくらいやれるか、が問われる。実体経済面で責任を持つため、構造改革特区を大胆に進めたり、社会保障の将来をはっきりさせたりして、投資や消費を引き出すことだ」

―インフレの弊害についての心配は。

「名目金利が上がると国債価格が下がり、銀行経営に響く可能性はある。しかし、デフレの今はインフレの弊害を心配する段階ではない。それより、経済を走らせる馬ともいうべき企業部門が、デフレ下で実質債務の増加に苦しみ続ける状況を克服しなければならない。国民経済全体を考えるなら、低率のインフレが望ましい」

―不良債権処理の加速に対する銀行の対応や、産業再生機構を、どう評価しますか。

「不良債権処理の基本的な方向は正しい。銀行の方でもそれに応じた動きが出てきているのは評価できる。産業再生機構は、市場でできることをあえてやるわけだが、その最大の理由はスピードにある。時間を買うということだ。市場任せにした場合よりも、迅速に進めることが肝心だ」

(聞き手・小此木潔)

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