どうする金融政策[4]—日銀はインフレ約束を

学習院大学教授 岩田 規久男氏

―インフレ目標の導入を早くから主張しています。

「2年程度の期間で、2%をはさんで上下1%のインフレにする目標を設定する。達成できなければ、結果責任を伴う約束をすべきだ。日本銀行がデフレは悪だという立場に立つことが大事だ。企業が多くの債務を背負って活動する現在、債務の負担が重くなるばかりで、デフレとともに生きるというのは無理だ」

―目標をどうやって実現するのですか。

「日銀の国債保有枠は日銀券発行残高以内とされている。この枠を撤廃し、緩やかなインフレが定着するまで、日銀が国債を買い続ける。戦前の昭和恐慌後の高橋是清財政と、基本的に同じ政策をとる。財政法で日銀の国債直接引き受けは禁止されているから、銀行を経由する形で国債を買い続ける」

「長期国債の買い切りオペレーション(金融調節)の額を、いまの月1.2兆円から3兆円程度に増やして市中にある国債をどんどん吸い上げ、代わりにマネーを供給する。市中には長期国債だけで400兆円の残高があるから、高橋財政の時以上にマネーを出すことも可能だ」

―企業は借金減らしに懸命です。

「銀行や機関投資家は手元がマネーばかりになるから、そのうち株や投資信託、不動産、外債を買おうということになる。資産価格が上がれば、企業もバランスシートの純資産が増え設備投資をしたり生産を増やしたりする。やがてインフレ予想が生まれる。将来、物価が上がると、実質的な金利負担が軽くなるだろうというので、投資や消費も増える。米国の大恐慌の時も、中央銀行の国債保有額が上がるにつれて株価や生産がV字型で回復した」

―インフレ予想はそんな簡単に生まれるのでしょうか。

「だからインフレ目標に対する強い約束が必要になる。アリバイづくりのような量的緩和ではだめだ。小泉首相は、デフレ脱却最優先を言い出した。次は日銀だ。デフレ脱却を強く約束する総裁に代わるべきだし、審議委員も目標が実現できないなら全員辞任するぐらいの覚悟を表明すべきだ。新総裁選任は政策転換の好機といえる」

―日銀が国債を買い続ければ長期金利までゼロに向かう。金融と財政が一体化し、財政規律が失われませんか。

「国債を買うのは、放漫財政を支えるためではなく、あくまでマネーを供給する手段だ。長期金利は名目でゼロ近くなっても、いまのデフレでは実質金利はバブル時期とそう変わらない。将来の成長期待が下がっている時は、インフレにすることで実質金利をかなり下げないと、元気な企業でも投資をしない」

―インフレになれば抑えられない恐れがあります。

「インフレ目標に上限を設ける。上限を超えそうになれば売りオペに転ずればよい。高橋財政の時は、次の馬場財政が青天井で財政支出をしたから超インフレになった。心配なら政府と日銀で財政規律を担保する協定を結べばいい」

「反対論者は国債や円が暴落するというが、通貨危機は、固定相場制のもとでの現象だ。変動相場制では、必ず相場が反転するリスクを感じて逆の動きがでるし、巨額の貿易黒字が極端な円安の歯止めになる。緩やかなインフレなら国債は暴落しない。仮に日銀が国債評価損を抱えても、通貨の信認がなくなることとは関係ない」

―デフレは金融政策で解決できるというが、実体経済をよくするのが先ではないですか。

「デフレのままでは、産業の再生も財政再建もすべて難しい。政策の割り当てをきちんとすることだ。金融政策が一番手として、インフレ予想を起こし構造調整の素地をつくる。その後に需要対策、民間の需要を呼び込む供給側の改革、最後に公的需要が多少落ちても大丈夫な段階で歳出削減、増税などの財政再建という順序だ。日銀がある程度のインフレに持ち込む努力をすれば他の政策がやりやすくなる。日銀は他がやらないから動かないのでなく、隗より始めよといいたい」

(聞き手・西井泰之)

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