どうする金融政策[6]—日銀、側面支援なら可能

日銀副総裁 山口 泰氏

―日銀の量的緩和政策にもかかわらず、デフレ傾向が続いています。

「日銀は20兆円を超える資金を銀行に供給しているが、銀行からの貸し出しは増えていない。企業の資金需要が極めて弱く、銀行側も大胆にリスクをとって融資する体力がないからだ。実体経済を刺激する効果という点では期待外れだった」

「しかし、意味がないわけではない。銀行の資金調達の不安を払拭し、金融システム安定化の原動力になっている。その結果、悪性のデフレスパイラルに陥るのを防いでいる。金融機関が資金をやりとりするコール市場の機能が非常に低下するなどマイナス面はあったが、それを差し引いてもメリットは大きかった」

―日銀にインフレ目標策を求める声が政府や与党から出ています。

「デフレ対策として使うべきかというとちゅうちょせざるを得ない。インフレ目標の成功例としてスウェーデンやニュージーランドの経験が挙げられるが、どちらもインフレを抑えるのが狙いだった。昨年、スウェーデンの中央銀行総裁に『30年代にインフレ目標を設けてデフレ脱却したと言われていますが』と聞いたら、何のことか、ときょとんとした顔をされた」

「金融政策の正統的な手段はおおむね使い果たしたし、さらに緩和しても効果は読みにくい。そんな道具しかないときに『いついつまでに物価を何%上昇させます』と国民に約束するのは無理だ。約束するだけでインフレ期待が芽生えるとは思えない」

「とはいえ、日銀もデフレファイターとして全力投球している。現在、早期にプラスの物価上昇を図るべく行っている政策は、事実上ゆるやかな目標策と言っていい」

―道具として日銀が、株や不動産を買うなど金融システムの外に直接働きかけるべきだとの議論があります。

アイデアはいくつか聞くが、何らかの副作用を伴う。たとえば日銀がETF(株価指数連動型の投資信託)を購入すれば、どうしてもPKO(政府による株価維持策)的な側面を帯びる。そういう試みが成功したことはないし、株式市場の機能を殺すことになりかねない。採用は困難だ」

―日銀が外国債券を買って円安をめざす案はどうですか。

「意図的な円安誘導に訴えてまで物価を改善する必要があるかどうかの判断になる。問題の一つは、全世界がつながる巨大な為替市場で、人為的に特定水準に誘導することが本当に可能なのか。もう一つは、貿易相手国との間で予想される摩擦など、政治的、外交的リスクを引き受けるに値する政策なのか。そう考えると、私は適当な手段ではないと思う。日本経済の弱さを反映して円安になるのであれば、自然に受けいれるのがいい」

―デフレ克服に向けて今後の金融政策でできることは何ですか。

「金融政策のみで即効性のある手法をとるのは難しい。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ理事は、デフレ下の金融政策の一つに財政当局との協力をあげている。減税の財源調達を、中央銀行が国債を市場から買って支援するような例だ。日銀単独で打つ手は限られているが、政府が新たな財政措置を決断し、超低金利の市場環境に変化が出るような場合に側面支援することは可能だ」

―その場合は、いまある長期国債保有量の上限の撤廃をして国債を買い支えるのですか。

「そこまでは政策委員会で議論していない。ただ、政府の財政措置により国債市場で起きる反応が、景気の回復に障害になると見なされるかもしれない。その場合には、日銀は持てる手段を用いて、障害を取り除く努力をする」

―日銀は、量的緩和など従来否定していた政策を取った経緯があります。信用が傷ついているのでは。

「今後も知恵を振り絞って努力していきたいが、もう少し先を見据えた戦略に沿って、個々の判断を位置づける必要があるだろう」

(聞き手・有田哲文)

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